KuriKumaChan’s diary

Kuri ちゃんと Kuma ちゃんの飼い主の独り言

Camflix の 5コマフォルダで思い出した荒木経惟さん-「写真家のコンタクト探検―一枚の名作はどう選ばれたか」

※ベタ焼き、コンタクトプリント、密着焼き、みんな同じ意味です!

フィルムの 5コマカット問題

前回明確になったフィルムのデジタル化の生産性の課題はまだ改善できていませんが、Camflix の商品コメントでよく取り上げられてる 5コマ用フィルムホルダー問題で、「そういえば日本の写真家でも 5コマカットの人がいたな」と思いました。
それは荒木経惟さんでした。
なぜ写真家がフィルムを何コマでカットして保存しているか知っているかというと、昔購読していたアサヒカメラに連載されていた「写真家のコンタクト探検」という記事があり、それに荒木さんの有名な「センチメンタルな旅」の奥さんが船で寝ているカットが含まれているベタ焼き(コンタクトプリント)が紹介されていたのです。その記事によると、

コンタクトは A4 サイズの印画紙に、五コマずつにカットされたネガが八段並んでいる。一般的なコンタクトとは違った切り方だ。電通写真部のネガケースをそのまま使っていたのである。

とありました。電通ではグローバル標準(?)の 5コマカットだったのでしょうか。
ただ今読んでそれよりも気になったのが「A4サイズの印画紙」というところ。確かに、 5コマカットだと 8段にしても A4 で収まるので合理的だな、という思いが一点。そして当時は無かった「A4サイズの印画紙」は四つ切りをカットしたものだと思うけれど、四つ切りサイズって(六つ切りもそうだけれど)不便なサイズだったなぁ、という思い。そうなのです。昔は A4 とか A3 ノビなんて印画紙は無かったので、六つ切りで足りなければ四つ切り、それより上は半切なのですがいずれも縦横比が 35mm 写真の 2:3 (24mm x 36mm) より正方形に近いので、余白が結構できてしまったのです。ベタ焼き用に A4 印画紙があったら 5コマカットが主流になったのでは?なんてつまら無いことを考えてしまいました。

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「写真家のコンタクト探検」より荒木経惟さんの回

写真家のベタ焼き

「写真家のコンタクト探検」は連載中リアルタイムで楽しみに読んでいました。なかなか画期的な企画だと思い、当時はスクラップもしていたのですが、後にこの連載は単行本になりましたので、今でも手に取って読むことができます。久しぶりに読み返してみてちょっとだけご紹介します。写真としてのお話よりはベタ焼きという視点で素人なりに。

狙って数カット

普通はタイミングやフレーミングを変えて何カットか取りますよね。荒木さんもそうですしこの本に登場する多くの方がそうです。それをみて当時は「一枚撮って満足せずもう少し工夫はないか粘ってみよう」というのが自分の学びでした。しかし今では連写で済まされているところもあります。でも「自分の意思によるもう一枚」はちょっと違います。

一発必中

田沼武能さんのカットは一発必中ですね。もちろん似たカットは前後にありましたが、「どのコマを選ぶかはシャッターを切った瞬間にわかる」という集中力。もちろん目立た無いようにサッと取るスタイルなので何コマも取り続けるわけにはいかないのでしょうけれども。
大石芳野さんも「何を選ぶかは撮影時に、もうわかる。意外なものはめったに使いません。ルポの場合被写体の持っている意味の方が優先します。」

カブリでやむなくトリミング

渡部雄吉さんの「台風が来た」は使いたいコマとその隣のコマにカブリが出ていて横長カットの上部をトリミングしてさらに横長になってそれが動感を増し賞を獲得したというお話。

今だったら違うカットを

高梨豊さんの「東京人」の最後のカットは「当時 2コマのうち迷わず左側のコマを選んだという。今になって見るとまた違って見えるから面白いね」と写真をシャッターを切った時、そしてコンタクをとみた時の「写真は二度見る」と。

ベタ焼き自体の特徴

一コマずつカットして管理されている木村伊兵衛さん

木村伊兵衛さんの場合はコンタクトプリントを一コマずつバラしてそれを縦横も合わせて並べ替えたものを作っているようでした。

3コマ三段を 4x5 引き伸ばしきで拡大コンタクト

石元泰博さんの「シカゴ シカゴ」では密着焼きではなく引き伸ばしていました。流石に 6コマの幅を引き伸ばせ無いので、3コマカットしてそれを 4x5 の引き伸ばしきで引き伸ばしコンタクトを作成するという手間のかけよう。すごいなぁ。

「処分された前後のコマ」

富山治夫さんの電停の「過密」には前後のコマは処分されて残っていないと。出版業界では不要なカットは残さないというのが通常だというのも、「なるほど。でもその不要となったカットにも何か写っているのでは」なんて考えてしまいますよね。

そもそもコンタクトを取れなかった森山大道さん

フィルムさえ満足に買えなかったという森山さん。もうすぐ映画が公開ですね。前売りチケット買いました。

daido-documentary2020.com

売れ残りのコンタクトプリント石川文洋さん

売れたカットは前後3枚が切り取られて手元には残ら無いという。通信社に売るわけなので、今と違って「ファイルをコピーして送ります」なんてできない時代には仕方がないので当然割り切っていたのでしょうけれども、手元にオリジナルが無いというのは寂しい。


自分のベタ焼き(コンタクトプリント)

私はベタ焼きを見るのが好きです。もちろん手順として自分のネガフィルムはほとんどベタ焼きを作成して、その小さな一コマ一コマをチェックして引き伸ばし対象をチェック。そうして引き伸ばしてみたらブレていたりして今ひとつだったという繰り返しをしていました。
そういう引き伸ばしの前準備としてのベタ焼きの役割もありますが、ベタ焼き自体を眺めるのも悪くはありません。昔のベタ焼きバインダーを取り出して、このころはあんなところでこんな写真を撮っていたな、なんて思い返すのは楽しかったです。今ではデジカメでフィルム写真に比べるとはるかに多いカット数を撮影し、Lightroom のライブラリで機能的には無限ベタ焼き閲覧状態が簡単にスクロールできる時代ですが、一コマ一コマ撮影していた頃とはだいぶ雰囲気が違います。デジカメでは欲しい 1カットのために連写を繰り返して Lightroom では微妙に異なるカットが果てしなく繰り広げられることもあり、そこを眺めていても時間の流れはあまり感じません。しかしベタ焼きだと欲しい 1カットのために撮影するのは多くても 4,5枚でしょう。そうするとベタ焼きをみてその前後も目に入るので時間の流れが目に入ってきます。

最近知ったのですが、結構 35mm フィルムも高価にはなってしまったもののいろいろな種類が流通しているとのこと。フィルム写真のも「(また)始めたいけれども足が重い」状態。再開できたらベタ焼きどうするかなぁ。

最後に「写真家のコンタクト探検」をもう一度紹介しておきます。モノクロ写真好きの方だけでは無く、コンタクトプリントを眺める楽しみも広がります!
フィルムのデジタル化が終わってもベタ焼きは捨てられないですね。