最初 X社と私は「被害者」と「(加害者の)身元保証人」の関係でしたが、被害者が裁判所に裁判を起こしてから新たに「原告」と「被告」と言う立場も加わりました。
生まれて初めて被告の立場を経験した民事裁判を何回かに分け、裁判がおおよそどのように進行したのかをまとめておきます。今回は訴状が届いてから第一回公判までを、次に第一回公判以降の進行をまとめ、その後は全体を通じて被告になった私が何どう考えて対応していたかをまとめるつもりでいます。相変わらずのディスクレイマーですが、ここに書くのはあくまでも一般論ではなく私が経験した裁判に限ってのお話だという前提でご理解ください。
催告書 - 「払わなければ法的手段を取らざるを得なくなります。」
前回弁護士と契約したお話をしていますが、契約後 X 社から回答書、催告書、その他資料が弁護士宛に送付されてきました。
回答書は私の弁護士が私との契約直後に「ちゃんと資料で説明してね」と X 社に通知していたので、それに対して「準備できた」という趣旨のものです。催告書は「xxx万円お支払いください。払わなければ法的手段を取らざるを得なくなります。」という趣旨。他には「証拠だ」とされる資料。基本的には私が X 社を訪ねて説明を受けたのと同様「積み上げた金額全額を身元保証人である私に支払って欲しい」というものでした。
確かに何件もの行為とそれに伴う被害金額とされる数字が提供されたのは事実でしたが、素人の私が(できるだけ冷静に)見ても「X 会社は一体管理はしていないの?」と不思議さが膨らみます。
「仮に A が顧客から預かった現金を会社に入金しなかったとして、本当に X 社はこの A の行為の数々にずっと気づかなかったの?」
「A が顧客に代金を請求しなかったから回収不能となり損害になったってどういうこと?会社として顧客に『お金を払ってください』と回収を一度でも試みたことないの?」等々。
まして X 社の資料には「横領している疑いがある」と書いてあるくらいなので、 X 社自身が横領を確信できていない状況で疑わしいものを「とりあえず丸ごと請求しておこう」としているに過ぎないと思いました。
これに対して弁護士より
「身元保証人として相応の責任は負うつもりだけれども、損害額もちゃんと整理できているとは言い難いので、これではお支払いできません。」
という趣旨を回答してもらいました。
「法的手段を取らざるを得なくなります。」と書いてあるので、これで裁判になるのだろうな、ということは十分覚悟はできていました。弁護士からは「減額するから支払って欲しいと言ってくるかもしれない」との話はありましたが、私にとっての「最悪」は多分「裁判になる」ことだと考えたので、その腹は括っておくことにしました。
実際にはさらにもう一往復やりとりがありましたが、結局裁判に突入することになります。
『訴状』一式が特別送達で届く
特別送達って??
ある日書留のように分厚くずっしりとした郵便物が配達されました。もう宛名書きは捨ててしまいましたが、普通「速達」とか「書留」といった宛名書き面への郵便種類の印として「特別送達」って書いてあったような気がします。 ちなみに Wikipedia では
特別送達(とくべつそうたつ)とは、日本において、民事訴訟法第103条から第106条まで及び第109条に規定する方法により、裁判所から訴訟関係人などに送達すべき書類を送達し、その送達の事実を証明する、郵便物の特殊取扱である。
となっています。
中身は?
正確に言えば裁判所からの私に宛てた文章は (1)「第一回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告書」で、それの添付として X 社が裁判所に提出した (2)「訴状」、(3)「証拠説明書」、(4)「証拠 甲第1号証〜」、が送られてきました。
どうやら今すぐちゃんと読まなくてはならないのは (1) と (2) のようです。(3) と (4) は以前に受け取った催告書にあった資料を若干アップデートしたもののようです。
「第一回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告書」 - 「このたび、あなたに対する裁判が起こされました。」
この書面に書いてあるポイントは二つ。
私が裁判所に出頭しなければならない期日として「口頭弁論期日」が決まったので出廷しなさい。
もう一つは訴状に対する主張を「答弁書」に書いて提出しなさい。
の2点です。
口頭弁論期日
裁判所のホームページの説明によると
「口頭弁論期日においては,裁判長の指揮の下に,公開の法廷で手続が行われます。原,被告本人又はその訴訟代理人が出頭した上,事前に裁判所に提出した準備書面に基づいて主張を述べ,主張を裏付けるために証拠を提出することが要求されます。」
となっています。
どうやらこのあと紹介する答弁書で一旦主張の趣旨を伝えた上で詳細は準備書面というものを事前に提出して、法廷で開かれる口頭弁論期日に臨むことになるようです。
口頭弁論等 | 裁判所
答弁書
すぐに対応しなければならないのが、こちらの主張を明確にする答弁書の提出でした。私は弁護士に作成してもらいましたが、弁護士に依頼せず自分で対応しても良いものなので、平易な言葉で書かれた答弁書の書き方も同封されてきました。それによると二つの大きなポイントに整理して書くようですが、詳しくはもう少し後で紹介します。
請求の趣旨に対する答弁
紛争の要点(請求の原因)に対する答弁
「訴状」には何が書いてあるか?
一方の訴状。こちらは X 社が自らの主張を裁判所に提出したものです。X 社の訴状はざっくり以下の構成となっていました。
- 「当事者の表示」
- 「損害賠償事件」、「訴訟物の価額」
- 「請求の趣旨」
- 「請求の原因」
「請求の趣旨」 には「xxx円支払え」と「訴訟費用は被告らの負担」とする内容の「判決及び仮執行を求める」と書いてあります。全体でも数行のボリュームです。 「請求の原因」 には請求の趣旨を求める根拠が書いてあります。具体的には A の悪事一つ一つを説明しているので訴状自体が全体で 30ページほどでしたがほとんどが「請求の原因」で占められていました。私の理解ではこの「請求の原因」には論理が書かれていて別途関連づけられた「証拠」が示される構成になっているはずだと認識しました。
A と私が被告になった
添付資料の一つである「当事者目録」には原告の X 社の代表取締役、代理人弁護士、被告となった A と私の住所氏名が書かれています。
X社としては、本来であれば会社に損害を与えた A に対して損害分の支払いを求めているわけですが、A が支払える様子は無いので身元保証人の私と二人並べて「どちらでも良いから支払ってくれ」と言う主張だったのだと理解しています。
しかしそうは分かっていても、犯罪者の A と並んで被告という立場になってしまうことには我ながら悲しい?気持ちにもなりましたが、私が訴えられる根拠は「身元保証人だから」なので、そこは冷静に「身元保証人が単純にいくら支払うべきか」の争いだと割り切ることにしました。つまり同じ「被告」に A とともに括られてしまいましたが、A と私では立場が違うのです。
証拠資料も分量は盛りだくさん
他にもいくつかの資料が入っていました。 X 社に損害を与えたとする A の行為の一覧表、200ページ近い証拠資料やその一覧表となる証拠説明書が約 10ページなど。証拠資料は X 社の内部で使われている伝票類が大半でした。
答弁書 を提出
私は「答弁書催告書」を受け取ってしまったので提出しなければなりません。私は弁護士にお任せでしたが以下のような内容で提出してもらいました。
「請求の趣旨に対する答弁」
原告の主張を認めるか認めないか、訴訟費用をどちらが支払うかの2点を一言で表すようです。
私の場合は「原告の請求を棄却する。」と「訴訟費用は原告の負担とする。」が弁護士が書いてくれた文言です。
素人考えの脱線ですが、「棄却」という意味は多くの場合裁判所の判断で用いられる言葉だと認識しているので、「私が棄却する」のではなく「裁判所が棄却する、という判決を求める」という意味なのでしょうか。弁護士にちゃんと聞いておけばよかったと思います。
また私が初めて知ったのは、ここで誰が負担するか問題にしている「訴訟費用」にはその大部分を占めるであろう弁護士費用は含めないそうです。これは裁判所の書き方にも注記されていますが、なぜなのでしょう。弁護士費用は勝っても負けてもそれなりにかかるので、勝ったら相手に負担してもらいたいものですが、大弁護団を雇って相手に勝ってもその費用までは相手に請求できないよ、ということなのでしょうか。
「紛争の要点(請求の原因)に対する答弁」
これはどう書いて説明したら良いのだろうか?と心配しましたが、弁護士は「追って準備書面で主張する。」の一言で済ませていました。これは口頭弁論期日の項目で触れられていますが、この期日の前に準備書面というものに主張をまとめて提出しておかなければならないことになっています。そこで紛争の要点(請求の原因)に対する答弁も含めて主張する、ということのようです。
一瞬後回しにして大丈夫?と思いましたが、これは仕方がないことだと後々よくわかりました。なぜならそもそも訴訟に書いてある「請求の原因」つまり支払えという根拠の記述特に裁判所がその内容をチェックしているものではなく、原告が書いたままなので、その妥当性や合理性は未確認なのです。私も何回も読みましたが、紙面はたくさん使っているもののその一つ一つの論理はかなり雑なものなので、その確認も行わなければ反論すらできないレベルだったのです。後々 X 社(の代理人)は裁判官に「これって結局 xxx という意味ですか?」と確認されるようなレベルの内容でしたから。
私は裁判に持ち込むとは十分に整理された論理を持って訴えるものかと思っていましたが、現実はなかなかそうもいかないようです。
答弁書の書式と書き方に関しては裁判所のホームページに pdf の資料が掲載されているので興味がある方は覗いてみてください。
第一回口頭弁論期日
当初の予定よりコロナの影響で半年ほど遅れて第一回口頭弁論期日となりました。 この日より一週間ほど前に私の弁護士から『準備書面』を送付してから口頭弁論に臨むことになりました。
今回は訴えられてから実際の裁判開始まで(第一回口頭弁論期日まで)がどのようなものだったかを並べてみました。次回ははじまった裁判がどのように進展していくかを書いてみたいと思います。
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