KuriKumaChan’s diary

Kuri ちゃんと Kuma ちゃんの飼い主の独り言

横領犯の身元保証人として損害賠償請求を受け裁判になった話 (5c) 弁護士との協業 自らの論理の整理 - 自分自身で迷いのない主張を持っていたい

損害賠償請求を受けた話の流れは一通り整理したので、今回は最後に私がどう考えてどんな対応を行ったのかを整理しておこうと思います。
裁判で不可欠となるこちらのアウトプットとしての主張(準備書面)は全て契約した弁護士が作成してくれています。ですので私が行ったのは二つ範囲に限定されます。極論を言えばそんなことしなくても弁護士は依頼人のためにしっかりした対応はしてくれるはずなので完全おまかせモードでも良いのかもしれません。しかし「訴えるぞ!」との脅し (とも受け取れる) 請求を受けてそれを一部とは言え自らの意思で撥ね除けるのですから、自分自身で迷いのない主張を持っていたい、と考えていました。今でも「裁判で争う」ということはそういうことだと考えています。

  1. 自分の考えを極力客観性を持って整理する(根拠を明確にする)。
  2. 自分の主張を弁護士に伝える。

以下、自分で手と頭を動かして効果的だった、と思うものを列挙してみますが、私の弁護士に言わせたら「弁護士ならそんなことは当然やっているよ。」と言われてしまうかもしれませんし、弁護士のよっては「依頼人は大人しくしていていいんだよ。」というかもしれません。が、「私が訴えられている」裁判なので私自身がしっかりした考えを持っていなければならない、と考えていました。

証拠を前提にした整理

ここでは訴状の内容と証拠として提出された各種資料をどう整理したかを書いてみます。

常識的な会計処理を考える

もともとは業務上のお金の処理に関する悪事が発端です。業務でお金を扱うということは、必ず会計処理が発生します。最初に私が気になったのは現金の横領の手口。原告の主張では、

「A は顧客の車検諸費用(重量税、自賠責保険料、車検検査手数料)を顧客から現金で預かり着服した。」、
「横領を隠蔽する為に顧客が支払う車検整備費用を不正に値引きし、顧客が支払う金額の帳尻を合わせていた。」

という主張でした。そして証拠として提出された伝票やその後の書面では前半の着服部分に関してはほとんど具体的な説明はなく、後半の整備内容の改ざん?に関するものが大半でした。もしかしたら実際にその改ざん内容を復元するのに大きな労力が掛かったので裁判資料もその分多くなったのかもしれません。しかし、私が引っかかったのは、「顧客に代わって現金で支払わなければならない重量税等」だから顧客からは現金で預かる。という大前提。
(クレジットカード支払いを認めるとクレジットカード会社に支払う手数料分が自動車会社の持ち出しとなる)

現金の入金がないのに A 社は顧客に代わって現金で重量税等を支払い続ける?

この大前提のもと、A が顧客の現金を着服し続けていたとしたら、X 社は「現金の入金がないまま重量税等現金で支払っているので、現金が流出していく」はずです。実際そうだったのだけれど、それに気づかなかったのでしょう。しかし「気づかなかった」ということと「しっかり管理できていなかった」ということは裏腹なので、A 社はその点にはできるだけ深入りしないように曖昧な説明に終始していました。

顧客から預かった現金をお店の現金として入金処理させないの?

こもれ最後まで明らかにされませんでしたが、「預かった現金に対する入金伝票を書く」というプロセスはどうなっていたのでしょうか?入金伝票を書いていれば、日々の現金の締めで差異が出てきます。もしかしたら現金棚卸をしていなかったの?とも思ってしまいます。
現金に関する社内処理のプロセスがあったのか?それはちゃんとチェックされる対象となっていたのか?は分かりませんが、少なくとも A はその処理を行なわずに済ませていたのでしょう。

「預かり金」勘定の行方は?

では、仮に A が本来の現金を預かった際の手続きを行なっていなかったらどうなるのでしょうか?一般の簿記で習う標準的な仕分けをしていれば、顧客から現金を預かった時点で、「預り金」勘定に一旦入れて、実際に支払った際にそこから払い出します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額 備考
現金 10,000 預り金 10,000 車種xx 車番 yyy の 〇〇さま車検諸費用

そして X 社が重量税等を支払った時点で、

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額 備考
預り金 10,000 現金 10,000 重量税、車種xx 車番 yyy の 〇〇さま

となって、預り金 及び対応する 現金 は共に相殺されます
もし A が現金を預かった時点で上の預り金に関する伝票を作成していなかったのであれば、預り金は重量税支払いの際に借方計上されるわけなので相殺できない預り金が累積し残っていきます。これは決算なり締めをしていれば気づくはずです。
もし A が現金を預かって着服した際に、現金以外の(例えばカード払)で預り金伝票を作成していたのであれば、最終的に預り金は相殺されますが、カード払い(未入金)と現金がアンバランスで残ります。もちろんカード払いに設定してしまったら実際には使われていないカードなので永遠に入金がなくバレるはずなので、別の勘定科目にしていたのかもしれませんが、それでもアンバランスで残っていきます。

実際どのような処理が行われていたのか不明ですが、どう考えても十分な現金管理や締め、決算が行われていなかったことには間違いなさそうです。つまり会計上の処理を証拠に出せないということは適切な会計処理はできていなかったはずです。
結局実現しませんでしたが、人証が行われた際にはどのように処理されていたのか説明を求めるつもりでした。

クロノロジーを年表形式で書き出す

今回の場合は多くの件数が積み上がっての被害請求でしたので、一枚の紙に年月のマス目を書いて、その上に被害が発生したとされる日付と金額を書き込んでみました。
その上で資料を読む際には必ずどの件に関するものかをチェックしていくと、悪事の傾向もわかりやすいですし、ある週にまとめて何件も被害が発生していることも明らかになり、「そんなに続けて悪事を働いても気づかなかったの?」ということも出てきます。
合わせて X 社が異変に気づいたとされるポイントを書き込めば、それ以降の悪事に関しては「異変を認識しながら身元保証人に連絡しなかった」部分も明確になるわけで、「身元保証ニ関スル法律」の第3条の「身元保証人に対して遅滞ない通知をする」定めを行っていない可能性が高いことが一目瞭然になります。
大学受験で歴史の試験勉強で自分の手で年表を書いてみる、システムのトラブルで事前に行った変更作業や各種エラーメッセージを書き出してみる、プロジェクトでトラブったら事象や対応を並べて書いてみる。時間軸のスパンは異なりますが、ある程度の件数が関わる物事を考えるときにはクロノロジーの整理は不可欠でしょう。

全ての伝票をトレースする - 実際の伝票ではないことが発覚!

約 50件の悪事が行われた顧客取引に係る見積書に相当する伝票、請求書に相当する伝票、売上伝票、クレジットカード入金伝票などが証拠として提出されていましたので、それらを一件一件チェックしてこれも一覧表にしました(日付、金額等)。

見積書は裁判用に後から作成されていた

最初に気づいたのが、20件近くの見積書の作成年月日が同じ事。さらによくみると、その日付は実際の取引から1年以上経った日で、私が X 社を訪れた日よりも後でした。にもかかわらず、そのことに全く触れずにあたかも実際の顧客取引で用いられた見積書であるかのように証拠説明にも記載し、参照もされていました。このことを準備書面で指摘すると、X社は後から作成したことを認めざるを得なかったのですが、かなりみっともない状況に見えました(素人目線ですが)。流石に嘘の日付を書くことはしていないので、嘘(改ざん)ギリギリを胸を張ってやっていたのでしょう。
実際には A が伝票を破棄していたので再現せざるを得なかった、という事でしたが、それをあえて伏せて話を進めていた姿勢に対し私も私の弁護士も、原告だけではなく原告代理人の弁護士たちに大きな不信感を抱いたのはいうまでもありません。おそらく裁判官もそうだったのではないかと思います。
なお、そこまでして実際の伝票であるかのような説明をしたのは、最初から「A が破棄したので伝票を再現した」と説明すると、話の最初から「伝票がないのにそれに気づかなかったのか?」と問われてしまうからなのでしょう。当然分かった時点でそのような指摘はしていますが、すでに「A の悪事になぜ気づくことができなかったのか?」と何回も問うた後だったので、もしかしたら痛くも痒くもないと思ったのかもしれません。

売上伝票が半年間分無かった?

さらに分かったのが、ほぼ半年間の分に対する売上伝票が証拠として提出されていませんでした。もしかしたらこれも A が破棄したから無いのかもしれません。しかし、売上伝票は無いのにクレジットカード入金伝票があったことから、X 社ではクレジットカードの入金がどの売上に紐づいたものかのチェックは行っていないだろうということが推測できます。実現はしませんでしたが、人証でこの点はしっかり確認するつもりでした。いずれにしてもかなり会計処理は杜撰だったことが垣間見られます。
(紐付けをチェックしていたとしたら、売上のないカード入金がゴロゴロ出てきて騒ぎにならないわけがありません)

全ての資料を読み論点をチェックする

本当はこれが第一だと思います。
相手の主張が証拠で本当に裏付けられているのか?と確認するのは第一歩。
私には見つけ出すことはできませんでしたが、私の弁護士は準備書面から参照されている証拠一つ一つをチェックして、いい加減な主張と証拠の紐付けが行われていることも見つけ出しました。
また、相手の主張の根拠になる証拠を調べることで「そもそもちゃんと伝票処理していたの?」とか「締め、決算はやっていないですよね」と副次的な発見も次から次へと出てきます。それらに関して相手の提出してくる反論も当然隅から隅まで読んで確認します。
そうすると、結構論理的な飛躍があったり、こちらの指摘に根拠なく断定の言葉だけを返してくるなど、要は「いい加減な主張をしているな(と思われる)」箇所が浮かび上がってきます。

弁護士との協業

いくら契約でお金を払うからと言って、弁護士の時間を必要以上に拘束することはしないようにしていました。つまり相談事項は必要最小限に留めるようにし、弁護士作成の準備書面ドラフトにどうしても加えて欲しいことだけを追加する提案をしました。時には取り入れられ、時には却下されることもありました。

最初のコミュニケーションは契約の時

もう今となっては最初の段階で弁護士とどれだけの会話ができたのかよく覚えていませんが、弁護士との契約は弁護士事務所に私が出向いて署名等をしましたので、その際に基本的な方針だけは確認しました。これはすでに紹介している
「被害額の算定」と「責任に応じた支払額の按分」
を明確にすることが大前提だ、と言うこと。特に被害と言えるのかどうすらまだまだ分からないということでした。具体的には横領ではない方の被害、つまり X 社が回収不能だと主張する金額自体、そもそも X 社が顧客に「お金支払って下さい」と要求していないのでは回収不能とは言えないよね、ということです。最初の何回かの準備書面のやり取りではその辺りが中心となりました。

弁護士とのコミュニケーションのルーチン

和解まで 10回くらい開催された弁論準備期日に向けては大体こんなルーチンを繰り返していました。

  • 準備期日の約 1週間前に原告から準備書面が弁護士事務所に Fax で届く → 弁護士から私に pdf にしたものがメールで届く。内容をよく読み込んで自分なりの整理をしておく。

  • 準備期日のその場では実質次回日程を決めるくらいなので、その帰りに地裁ロビーで 5-10分ほど相手の準備書面に関する整理及びこちらの主張の方向性を確認。

  • 次回準備期日の10日ほど前に私の弁護士が準備書面のドラフトを私に送付 → 私の意見やコメントを返信 → 弁護士が適当にドラフトをアップデートして裁判所と原告に送付。

事務所を訪れるのは最小限に

わざわざ時間を取ってもらい、事務所に行って今後の方針などの確認や論理の整理などしたことも 2回ほどありました。私の担当弁護士は饒舌な方ではなかったので言葉は少なかったのですし、時間を取って話し合ったから新しいことが出てきたり解ったりすることはあまりなく、地裁のロビーでの少しの会話や準備書面の確認で交わすメールだけでも十分濃い内容を持ったコミュニケーションができていたような気がします。
ただ最初の数回は原告の主張の論理が今ひとつ明確ではないので、月に一回の書面交換ではもどかしいので弁護士に相談に行ったことがありました。その結果も相手の主張の合理性を確認していきましょう、と言うことだったと思います。

私の主張を却下されたこともある

詳しくは書きませんが、感情が昂ったまま文章にすると、やはり客観性を描いた表現などが混ざってしまいます。私がこの文章を準備書面に含めたい、と主張した際に「(私が書いた)内容は本当に第三者が見ても客観的な主張だと思うか?」と嗜められたこともあります。今回の準備書面のやり取りでは原告の主張に神経を逆撫でられる表現もあったため、ついついこちらもエキサイトして反応してしまうことがありましたが、弁護士は流石に冷静でした。

結局(少なくとも今回に限っては)落ち着いて原則に沿った対応をしたことがよかった

原則に沿った、と言うのは何回か触れている「被害額の算定」と「責任に応じた支払額の按分」 を明確にしましょう、という最初に弁護士が口にした論理。もちろん私の弁護士独自の論理ではなく損害賠償請求では王道の論理なのだと思いますが、そこから外れることなく着実に「この部分は(今までの説明だと)被害とは言い切れないですよね」、「この部分は会社側の管理上にも問題がありますよね」との主張を弁護士とともに勧められたのがよかったのだと思います。