KuriKumaChan’s diary

Kuri ちゃんと Kuma ちゃんの飼い主の独り言

「受刑者にも適切な医療を!刑務所医療過誤事件」 - (1) CALL4 主催「はじめての裁判傍聴ツアー」に参加してみた

とある国家賠償請求裁判の第一回公判を「はじめての裁判傍聴ツアー」という企画に参加して傍聴してきました。

最近世の中で多く議論されていることに、弱い立場や制約を受けている立場の方々に対する「行政の対応は適切なのだろうか?」という問題提起がいくつもあります。こういった訴えを「直接自分の耳で確認したい」という方も結構多いのではないでしょうか。実際に裁判を傍聴した経験がある方は少ないと思いますが、「自分の目と耳で裁判を傍聴してみたい!」と考える方にはご紹介する「裁判傍聴ツアー」は役に立つと思いま す。

今回は主催者の CALl4 の紹介とともに、この国家賠償請求の第一回公判どのようなものだったのかを整理しておこうと思います。どちらかというと訴えの内容に深入りするものではなく、外形的な様子をまとめたものにしておこうと思います。

www3.nhk.or.jp

訴えの超概要 (素人的まとめ)

最初にどのような内容の訴訟であるかを簡単に説明しておきます。
上で紹介した載せた NHK の記事から抜粋すると、
埼玉県内の刑事施設に収容されていた受刑者の男性(以下 Aさん)ががんで死亡した」 という事実と、
施設側が適切な受診や処置を受けさせなかったことが原因だ」という主張により、遺族が国に賠償を求める訴訟のようです(訴状冒頭にも「国家賠償請求事件」と記載されていました)。
よくある 民事訴訟刑事訴訟 とは違い、国を訴える行政訴訟という枠組みで、国家賠償法という法律に基づいて救済を求める訴訟のようです。

訴状に添付されている当事者目録には、被告として「」の一文字と、「上記代表者法務大臣」として現職の法務大臣の個人名が記載されていました。今回の訴える相手となる刑事施設が法務省の管理下にあるからなのでしょう。 少し前に「法相は死刑(執行)のはんこを押す地味な役職」なんて口が滑って非難を浴びた法務大臣がいらっしゃいましたが、地味かもしれませんが国を代表して訴えを受けなければならない超重積を担う役職だな、と改めて思い出しました。

なぜこの裁判を傍聴したのか?

ところで何故この裁判を傍聴の動機は何か?
まずは一般的に「どのような裁判が行われているのか知りたい」気持ちがあったことです。昨年までの自分の裁判を通じて、
「『裁判』というとネガティブな印象があるけれど、自分の考えを整理点検した上で正々堂々と主張するためには裁判は身近なものとして必要であれば活用すべきだ。」
と認識したことが背景にあります。

二つ目は冒頭にも書きましたが、最近立場の弱い人に対する行政の対応の適切さに関する議論がいくつも目につくようになったことにより、そこに共通した何かがあるのではないか?という漠然とした疑問を持ちがじめていたことがあります。
最近では「ウィシュマさん名古屋入管死亡事件」という大きな話題になった事件もありますが、少し前ではコロナに伴う緊急事態宣言が発令され、東京都からの飲食店などに対する一律の時短要請があり、飲食店経営者が東京都(知事)を訴えた裁判もありました。
実はこのグローバルダイニング社の起こした訴訟に関心を持ち調べた際に、今回紹介する CALL4 というサイトで情報を整理集約した上で原告の支援を求める活動をしているの知ったのです。その時 CALL4 のアカウントを作成したので、新しいケースの紹介メールとともに「はじめての裁判傍聴ツアー」も紹介されるようになりました。なかなかスケジュールが合わなかったのですが、今回ようやくツアーに参加することができたのです。

CALL4 について

CALL4 とは?

その CALL4 ですが、私なりに整理すると、
「社会問題に関する訴訟を問題 (訴え) の内容を分かりやすく解説し、より多くの人に理解を得ることで、金銭やそれ以外の支援を得るめの Web サイトとその運営組織 (NPO)」
と理解しています。

CALL4 自らはそのサイトでもう少し詳しく下図のように紹介しています。

「CALL4 とは」ページより

www.call4.jp

CALL4 では多くのケース(訴訟)を取り上げており、ケースごとのページが作成されています。2023/05/20 時点で 52ケースが登録されていました。
(下図は、今回私が傍聴した「受刑者にも適切な医療を!刑務所医療過誤事件」のケースのページ)

個別ケースのページ。まずは支援の受付。下部に基本情報や訴訟資料、期日等のスケジュールが掲載されています。

「はじめての裁判傍聴ツアー」

次に CALL4 が主催するツアーのお話です。今回のツアーが vol.5 となっていましたので、全ての登録ケースを傍聴ツアーの対象としているわけでは無いようです。必ずしも傍聴人を積極的に増やしたいと考えているわけでは無いかもしれませんし、サポートする CALL4 スタッフのキャパもあるかもしれません。もし今後開催のツアーを知りたいと考えるのであれば、CALL4 にアカウントを作成しておけばツアーの案内も送られてきますので、興味のある方は登録をお勧めします。

この傍聴ツアーは以下のような呼びかけで始まります。

公共訴訟のことは気になるけれど、ひとりで裁判傍聴に行くのは少しハードルが高い。
そんな方に向けて、CALL4が傍聴ツアーを企画しました。
この機会にぜひ、一緒に裁判を体感してみませんか?

「ひとりで裁判傍聴に行くのは少しハードルが高い」人向け

私も自分がが被告となった最初の裁判で東京地方裁判所の建物に入るのに、ムチャクチャ緊張しながらロビー入り口の金属探知ゲートを潜った記憶があります。多くの人にとっては「裁判所という建物に入っていく」だけでも心理的な抵抗感があるでしょうし、何階のどこにあるかわからない「法廷」という場所にどうやって辿り着いたら良いのか?何か裁判所で手続きは必要なのか?と不安になるかもしれません。
その部分を CALL4 のスタッフがエスコートしてくれるのですから初めて裁判所を訪れる人でも心理的ハードルを下げられること間違いありません。

ツアーの案内から申し込みまで - 申し込みは Peatix

CALL4 のお知らせページに今回のツアー詳細がありますが、今回は以下のような募集でした。

お知らせの記載から抜粋

私が申し込んだのは案内を受け取った当日だったので、どのチケット枠も空いていました。しかし直ぐに枠は埋まったようでしたので、参加したい方はメールの案内をしっかりチェックして早めに申し込むのが良いでしょう。

なお、実際の申し込みとその管理は CALL4 とは別サイトの Peatix で行なわれますので、Peatix のアカウントも持っていた方が楽かもしれません。ただしライブのように入場時に QR コードを提示するのではなく、当日は CALL4 のスタッフの方に名前を伝えれば OK でした。

Peatix に掲載された裁判傍聴ツアーのページ

実際の傍聴と「報告会&交流会」

さて、実際の傍聴当日の様子です。 ツアーとしての集合場所は「東京地方裁判所ロビー」となっていましたが、今回は裁判所の前の歩道で CALL4 の副代表の丸山さんが CALL4 のチラシを持って待っていてくれましたので、直ぐに分かりました。 参加したメンバーは 10人 +α くらい。他にも CALL4 のスタッフの方が何人も同行してくれましたので、ロビーから法廷傍聴席まで迷うことなくたどり着けます。

「ツアー」としての構成は、この後紹介するように実際の法廷を「傍聴」することと、傍聴した後に裁判所に隣接した弁護士会館の会議室での「報告会&交流会」となっていました。時間的な目処は以下の進行で、12:00 頃には一旦解散となりました。オプションで皆さんでランチを、というご提案もありましたが、私は所用があったので交流会終了とともに失礼しました。

  • 10:00 集合
  • 10:30 傍聴
  • 11:20 報告会&交流会

傍聴 - 第一回公判

東京地方裁判所では裁判の当事者も傍聴する人でも、法廷に入るまでにロビーの金属探知機以外のチェックはありません。目的の 610法廷までエレベーターを使ってゾロゾロと歩いていくだけです。
一般的には小さな注意点があります。建物入り口が「職員と弁護士」と「それ以外の人」で分かれていること、どの法廷で公判が開かれるかは各法定(部屋)の入り口の掲示以外には記されていないので、事前に確認しておくかロビーの検索用タブレットで調べるかしか方法はない事、法廷では前の公判等が行なわれているかもしれないので確認が必要なこと、など。実際に何回か足を運ばないとわからない事です...

被告(国)の代理人席は 7人

今回の法廷は 610法廷でした。法廷に入るとまだ傍聴席には数人しかおらず、「自分が過去損害賠償請求で被告となった民事訴訟の第一回公判もこのフロアだったなぁ」などと思っているとその後も傍聴者は増えていきます。原告側は弁護士が 3名と原告のお二人。開始時間少し前には被告代理人の席にゾロゾロと 7名ほどう入って行きました。比較的若い男性ばかりです。国が契約した弁護士事務所の人たちなのでしょうか。もちろん被告代表とされている法務大臣はいません。

やっぱり訴状や証拠類の確認と今後の進め方の確認がメイン

国家賠償請求だろうが、大弁護団が押しかけようが、第一回公判というのは訴状をもとに論点や初期の証拠類の確認を行うのと、今後の基本的な進め方を決めるのが目的のようでした。しかし私にとって二つの印象に残るものがありました。

非公開の Web で進める方法は選択せず - 公開の場で

裁判長から今後の進め方について確認があった際、「Webによる手続」の提案がありました。(今の世の中では当然の流れなので)当事者双方が Web 会議を利用することもできますよ、というものでした。
ここで原告代理人より、
「今日の傍聴席のように社会的にも多くの注目を集めている訴えです。是非公判で進めてください。」
と意見が出されました。裁判長は被告側に意見を求めましたが強い反対意見は出ずに、今後も公判で進めましょう、ということになりました。 確かに、準備書面を交わすことで進める日本の訴訟手続きではオンラインで進めた方が効率的に決まっていますが、『誰でも傍聴』できる公判という仕組みはオンラインには実装されていないようです。特に国など行政を訴えざるを得ない社会的な影響のある場合は、原告にとって傍聴という仕組みを通じた世論の後押しは重要なのでしょう。もしかしたら「傍聴ツアー」にはそういった後押しの目的もあるのかもしれません。

この資料自体は民事手続きに関するものだが、国家賠償請求でも同じなのかな?

原告意見陳述もあった

もう一つ「原告意見陳述」というものがありました。 これは原告側が求めたものです。裁判長からは「記録を取らないし証拠ともしない」と前提を告げられて許された陳述でした。 ドラマなどでは結審する前に行われる印象を持っていましたが、実質訴状の確認がなされた時点で原告(今回は死亡した A さんの母親と婚約者)が自らの思いを語られました。素人考えですが、とかく各論の議論になりがちなものを「訴えの根本にある原告の思いを忘れずに進めてください」という願いとして伝えたのだと理解できました。これは報道ではなかなかニュアンスまで伝えにくい部分ですし、CALL4 のサイトには原告の思いは文字で掲載されていますが、やはり本人が肉声で伝えるのを聞くということはだいぶ違う印象です。

弁護団による「報告会」と原告の挨拶

次回期日を決めると第一回公判は終了します。ツアーメンバーは CALL4 スタッフの誘導で日比谷公園側の弁護士会館にある会議室に移動します。
ここでは最初に弁護士の方々から、生々しい経緯の説明や、
「刑務所では専門医に診察を受けること自体が困難」、
「虫歯の治療も困難」、 「実は刑務所での医療は法務省の予算で行われているので、年度末に予算が少なくなると治療もさらに受けにくくなる」
など、普通に暮らす人の知り及ばない現実をいくつもいくつも伺いました。
さらに、この手の訴えを弁護してくれる弁護士を探すのはなかなか困難で、原告が小竹広子弁護士にたどり着くのに時間がかかったというお話もありました。

一通りの経緯を再度理解して落ち着いた後、A さんの母親と婚約者から傍聴への感謝の言葉と共に、改めて A さんが刑務所の中で発症してから病は広がり苦しみながら頑張って生きようとしていた様子、刑を終えた後の将来を婚約者とを語らっていた様子などが紹介されました。
これもマスコミの報道、さらには法廷では知ることのできない被害の実情なのだと思いました。

参加者による「交流会」

一通りの説明が終わった後は、ツアー参加者一人一人が自己紹介と共に傍聴をしようと思った理由や、傍聴した感想などを話す場となりました。マスクをしていたのでそれまで気づきませんでしたが、マスコミでお顔を拝見するジャーナリストの方もいらっしゃいましたが、大半の方は一般の方々のようでした。学生、医療に携わる方、私よりお年を召した方までさまざまでした。

第二回以降の公判の傍聴は自分で

CALL4 のスタッフの方に確認したのですが、どうやら CALL4 の「傍聴ツアー」は初回の公判のみを対象としているようです。「傍聴」という行為自体は実は特に難しいものではないことがツアーでも分かりますので、次回公判を傍聴することは誰にでもできます。「興味を持って公判を続けて傍聴する」ということ自体が原告の問題提起に対する大きな支援になるのでしょう。
なお、「次回は 6月 19日 11:30」第一回公判の最後に決まりましたが、変更されることもあるかもしれませんので、時期が近くなったら CALL4 に掲載される「期日予定」を確認した方が良さそうです。
(現時点では今回の「第一回期日」しか情報がありませんでした。)

ただしもし第二回公判から傍聴を考えている人がいらっしゃいましたら一つだけ注意を。基本的には公判といってもお互いの主張は訴状を含む準備書面という文書で事前に提出されますので、法廷でけんけんがくがくの議論が繰り広げられることはまず無さそうです。ですからまずは CALL4 のサイトで公開される「訴訟資料」を読むことが必要です。公判では相手側が提出した書面への反論の有無と、その反論をいつまでに提出するかを決めることがメインのようですし、原告被告とも代理人しか出てこないのが普通のようですから「ふらっと」法廷をのぞいてもつまらないと思います。


今回は「はじめての裁判傍聴ツアー」と主催の CALL4 の紹介を中心に整理してみました。
実際に傍聴してみると、とても多くのことが頭をよぎったのですが、もし人様に見せても構わない程度に整理ができたら続編を書いてみたいと思います。


** 補足資料 **

東京新聞 2023年3月14日 www.tokyo-np.co.jp

原告弁護士の海渡雄一さんが代表を務める NPO 法人「監獄人権センター」のホームページ prisonersrights.org

2021年度CALL4年次報告書 「2021年度(2021年6月〜2022年5月)年次報告書及び決算書を発行しました