いつもは何か「自分でやってみた」結果や内容を書いているのですが、今回は「思い」だけを書いてみます。
今日 (2021/05/01) 午前中に東北地方で最大震度5強、マグニチュード 6.6 の地震が発生しました。ちょうどテレビを眺めていたら CM 中だったのですが緊急地震速報が報じられて緊張感が走りました。
それと同時に先日たまたまこの記事が目に入ったのを思い出しました。
上の記事は昨年の下の記事で報じられた仕組みの具体的な展開となっているようです。
Androidを地震計に。Google、スマホで作る世界規模の地震検知ネットワーク発表 - Engadget 日本版
これらの記事を読んで、「日本の地震観測体制は他国に比べて整備されていて、震度(階級)の概念が浸透している日本は進んでいるな」という思いと、「でも」という思いも交錯したので少し頭の整理をしておこうと思いました。
震度(震度階級)の概念は世界でもほぼ日本だけ
このライターの方はいつもニュートラルな視点で記事を書かれているので、いつも RSSリーダーでチェックさせてもらっています。そしてこの記事で強く思い出したのは「(今のところは)海外では震度という概念が通じない」ということです。会社勤めの最後数年間は災害対策関連の仕事をしていました。本社がアメリカの会社なので日本で大地震が発生した時のレポートや、今後発生が予想されている首都直下や南海トラフの大地震への備えなどを説明するときに必ず直面するのは「震度(Seismic intensity)ってなにそれ?」というお話し。
日本ではマグニチュードよりまずは震度をもとに地震に対するアクションやリスクを考えますが、アメリカ人に震度の話をしても通じません。単に英語で震度に相当する "Seismic intensity" という言葉が通じますが、私たちの馴染みのある震度とは実際には震度階級 ("Seismic intensity scale") というものに位置づけられて初めて共通の物差しになっているからです。震度というよりは震度階級という共通の物差しを持っていない人たちは、マグニチュードで物事を判断するしかありません。ですのでアメリカ主導の地震のリスク評価としては「マグニチュード xx 以上だったら」という基準になるのですがこれは日本では失笑ものです。狭い国土が広大な海洋に囲まれていると、たまに人口のないところで発生する比較的マグニチュードの大きな地震にも被害レポートを要求されたりします。日本人だったらいくらマグニチュードが大きくても遠方であれば震度 1 にもならない地震はビジネス上のリスクにもならないしニュースにもあまりなりませんが、それをいちいち
「大規模な(マグニチュードの大きな)地震が日本国内で発生したが、 震央は会社がビジネスを行うような人口集中地域から何百キロも離れているところで、あ会社の設備のある一番近い xxx 市でも揺れは感じず被害報告は全くない」
なんて説明を書き連ねるのが当たり前でした。。
日本の震度観測ネットワークは優秀
日本では(多分)気象庁が主導して大規模な地震津波観測体制を構築しています。
だけれども
ということでずーっと外国の人に地震観測に関して説明するときには震度計ネットワークと震度階級のある日本に優越感を持っていたのですが、Google の取り組みに関する記事を見ていたらその優越的な立場はいつまで続くのだろうか?という思いがよぎりました。
日本は過去の成功体験に固執するあまり新しいテクノロジーの価値を軽視し、気づいたら他国にあっという間に追い越されてしまう、という経験を何回もしています。
Earthquake detection and early alerts, now on your Android phone
少し google の地震に対する取り組みを調べていたら、Google は何年も前から地震の検知とそのアラートに関する特許を出していました。その特許と昨年からの取り組みが同じベースなのかは分かりませんが、Google という会社が幅広い研究をしていることも改めて分かりました。
US20170206769A1 - Security system with earthquake detection - Google Patents
Google の記事を読んでいて最初はスマホの加速度計が P波/S波 といった識別ができるのかどうかわからなかったのですが、Verge の記事を読んでいたらこの小さなデバイスの中のさらに小さな加速度センサーは P波と S波をちゃんと識別測定できるようです。
もちろん、スマホ自体が通常から振動を受けているのは大前提ですが、何しろ台数が日本の震度計とは桁違いに多いので大量のデータが得られます。大量のデータが得られるとどうなるのか?最近の私たちはビッグデータの威力を目の当たりにしてきたところなので震度測定の近い将来の大きなブレイクスルーが予想できそうです。
もちろんまだまだ長年培われてきた日本の地震計システムの方がアドバンテージがあるかもしれません。当然人がいないところではスマホを持った人がいないので、人口とさほど関係なく大きな面で捉えている地震計ネットワークに敵わない部分もあるでしょう。でも‥
気象庁には内向きにならずに頑張ってほしい
さて、地震計ネットワークを構築してきた気象庁や大学の研究機関、そして企業は Google のチャレンジに勝るような進歩を実現してくれるでしょうか。なんとなく想像できるのが「富岳を用いて」というパターン。でもアプローチとしてはそれでは違うんじゃ無いかな、と思います。
日本は、その大きな人口に比べて世界有数の地震/津波リスクを背負った国です。なので気象庁もその観測体制を常に改善や拡張を続けているはずです。気象予報に比べて観測インフラが重厚であるためか、地震観測に関してはウェザーニュースなどの民間の競合もあまり無いように見受けられ、日本の地震観測体制は気象庁が一手に担っているのが実情では無いでしょうか。
観測体制の新しい動きへの対応
実際に日本でも観測データはオープン化されて何年も前から API で誰でも取得できるようになっていたり、ポータルサイトの改善なども行われているようです。でも観測体制はどうなのでしょうか? 高品質だけれども高価であったり設置に十分なアテンションを払わなければならない観測機器を前提とした観測網はより強化されているのでしょうけれども、どこかで Google の取り組みのような全く新しいデバイスで観測するなど新しい動きにも目を向けて手を携えるなど、幅広いスタンスを持ってもらいたいと思います。単純な品質競争ではなく、日本の地震観測の仕組みを世界にも役立てられるようにしよう!という気持ちを持って世界に発信してくれるようになることを期待しています。
観測データのグローバルな共有のために
近いうちに Google は世界中に広大な震度観測網を構築できるのだと思います。そうなると莫大なデータが集まり分析が進みます。現在 Google が震度階級のようなものをどう考えているのか分かりませんが、分析には何かしらのスケールが必要なので独自の震度階級を整備し始めるのは明らかです。
一方で私たちが慣れ親しんだ震度階級はグローバル標準になり得るのでしょうか?おそらくそのままではグローバル標準にすることは難しいのでは無いかと思います。阪神・淡路大震災以降整備された 5強 5弱 6弱 6強という刻みはどう考えても過去を引きずっていて、素直に考えたら出てこないレベル分けでしょう。相変わらず青天井のままの震度 7 というのも分かりにくいかもしれません。
家屋の倒壊などの表現も比較的堅牢な建築物が普及している日本でしか当てはまらない表現かもしれません。
もちろん第一に考えなくてはならない日本国民の理解の連続性に問題が起きてはならないでしょう。でも日本の震度階級にも色々な経験と蓄積があるはずなので、Google をはじめとするグローバルチームに提案ができても良いのではないかとも思います。
培ってきた精度(品質)を高める工夫を違う視点から見直すことができるか?
気象庁 | 正確な震度観測を行うために
近い将来発生する首都直下地震、南海トラフ地震のデータが得られれば世界は注目するでしょう。でもそういった大災害が起きて初めて注目を浴びるのではなく、平常時から世界に発信できる日本であったらいいな、と思いました。
がんばれ日本!
ANDROID IS BECOMING A WORLDWIDE EARTHQUAKE DETECTION NETWORK