私が巻き込まれた事件の概要 (訴状ベース) は前回紹介しましたが、今回は私への請求の根拠となった「身元保証人制度」についてその当事者としてのお話をいくつか紹介したいと思います。
なお、この文章も素人の私が調べたレベルのもので自分でも調べ尽くしたとは考えてはいません。もちろん専門家のレビューも受けていません。実際に身元保証人制度について知りたい場合は適切な情報源を確認するとともに専門家のアドバイスを受けるようお勧めします。
世の中の一般論として
2020年4月1日以降、改正民法の施行による制度の変更
身元保証人制度を定めた「身元保証ニ関スル法律」は古い法律&制度で、あまりににも保証人のリスクが高いということで、2020年の民法改正により制度に変更が加えられました。私の理解では「身元保証ニ関スル法律」自体は変更ないまま、民法の改正で上位レベルで保証契約自体に制約をかけたことにより、身元保証人制度も一部変更されたと言うことです。
限度額の設定が必須(定めがない場合は契約が無効)
「身元保証ニ関スル法律」では保証人負うべき上限金額の定めがありません。言い換えればこの法律上は自分が保証した相手 (他人) の行為によって青天井の責任が問われる可能性があります。もちろん実際には「(使用者による) 被用者の監督」などの事情を斟酌する、となっていますのである程度の歯止めはありますが、保証契約においては上限は必要ではありませんでした。今回の民法改正で広く「極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効」とされたために、身元保証制度も運用が変わったと言うことです。(根保証とは将来にわたって発生する債務に対する保証).
当然ですよね。一個人に青天井の賠償責任を負わせる、なんておかしな慣習が残っていたもんだと思います。そしてそれに抗うことなく安易に印鑑を押してしまった私なのですが...
情報提供義務
民法では保証人に対する主債務者、主債権者による情報提供義務というものも設定されたようです。しかし身元保証の場合は被用者が使用者に損害を与えた場合の賠償義務であり,そもそも発生するかどうかが不確定でり事前に内容を想定できないものなので、改正民法の情報提供義務が具体的に身元保証制度にどれだけの影響があるのか私にはわかりません。
そもそも私には改正民法の適用がないのでちゃんと調べていませんが、適用があったとしても「横領」という犯罪行為で積み上がった損害状況など私がどちら(被告A, 原告)に問い合わせたとしても事前に情報提供が得られるようなものでは無いと思います。
2020年4月1日から法務省保証に関する民法のルールが大きく変わります
今後身元保証人になるかもしれない人に、改正民法の限度額設定の恩恵はどれだけあるのでしょうか?
私のケースには適用のない改正民法による制度変更ですが、一般論として限度額が設定されることがどれだけ以前より保証人にとってメリットがあるのでしょうか?保証人となる人がハンコを押す際に「上限 1,000万円」と言われたら「それなら保証人になりません。」と言えれば良いのかもしれませんが現実はどうでしょうかね.... 保証を受ける従業員側が「そんな金額を保証人に背負わせてはならない!」と身を引き締めるでしょうか?もちろん青天井よりマシだとは思いますが。逆に言えば被害を受けた際には使用者側が限度額目一杯を保証人に請求しやすくなるのかもしれません。
「身元保証ニ関スル法律」自体の内容
ところで民法の改正があっても法律としてはそのまま残っている「身元保証ニ関スル法律」ですが、どのようなものかというとオリジナルは上に紹介した e-gov のリンクを参照いただき、現代語訳は Wikipedia を参考にさせていただきます。
個別の論点は別途ご紹介するとして、ここでは大きなポイントをチェックしておきます。
まず保証の有効期間の問題。私の捺印した身元保証書には期間の定めがないため、5年の有効期間となります。しかし残念ながら 5年経つ前に被告A はやらかしてくれましたので、期間的に私の責任を回避することはできません。
私が横領の知らせを受けて最初にこの条文を読んで気がついたのが、第3条の「身元保証人に対して遅滞ない通知をする」定めです。その時点で「被害者 (会社) 側は一体いつ A の悪事に気づいていたのだろうか?」と考えました。 そもそも私は被害者から過去に連絡を受けたことは一切なく、悪事の発覚後に私から被害者側に連絡したのが初めてのコンタクトでした。もちろん被害に気づいたら放置して被害が拡大するのを放っておくわけはないはずですが、「被用者が業務において不適任であるなどの状況」は全く無かったと言い切れるのでしょうか?
三つ目は第5条の「使用者の過失」ですが、これは被害者側にも管理上の何かしらの落ち度があったのではないかとは想像しましたが、詳細な手口などが分からない限りその時点で主張するのは難しそうだと感じました。
まぁ、法律自体はこの程度の構成なので、素人であってもその趣旨は分かります。 自分が身元保証人として損害賠償請求を受けてしまったら、まずこの条文は何回も何回も読んで実際に発生したことと照らし合わせてみることをお勧めします。ただし素人考えには限界がある (自分に都合よく考えがち) なので、法律の専門家にサポートをもらうことを強くお勧めします。
保証人になった時点の「彼」と「その後の彼」は同じだけ信頼できるとは限らない
ところで身元保証という制度の話に戻ります。民法改正だとか条文の定めとか、法律上の論点はいろいろあるとは思います。しかし今となって私が思うのは、そもそも
自分以外の他人の将来を保証するなど無謀にも程がある。
と言うことです。仮に保証人を引き受ける時点で相手の言動や考えに一点の曇りのない聖人のような大人であったとしても、その何年後かにどうなっているかなんて分かるわけないのです。保険会社や保証会社が確率論を持ってある一定の母数を相手にして統計的に保証するのとは訳が違います。たった一人に関してだからこそ、その将来を保証するなんて博打のようなものです。自分が唯一コントロールできるはずの自分自身だってどこで何にぶつかるのか分からないのに、ましてや自分のコントロール外で 24時間の監督なんで現実的に行うことのできない他人の将来を保証するなんてどう考えても博打でしかありません。
今回の犯人被告人A はキャバクラ狂いの成れの果ての犯行のようですが、そんな言語道断な人間だけではなく、やむを得ず間違ったことをしてしまう人だっているでしょう。今回の A の保証人になってしまった私自信認識が甘々だったと反省しなければなりませんが、こんな悪道でなくても勤務先の会社に損害を与えてしまうことは十分あり得るのです。
もちろん使用者側としては身も知らずの従業員の採用にあたって何かしらの担保を取りたいと言うのは常識的な考えだとは思いますが、私たち一般人がわざわざ使用者側の立場に立って自らのリスクを高める必要は全くありません。
今となっては私は他人の将来の責任を (別の) 個人に負わせる制度など廃止すべきとさえ考えるようになりました。
いくら民法の改正があったとしても、身元保証人を引き受けることはやめましょう。引き受けてくれないと困ると懇願されても、「今のあなたは信用しているけれども、あなたの将来は誰にも分からない」と断るべきです。もしかしたらそこで友情はおしまい、などと言われるかもしれません。でも冷静に考えれば他人に大きなリスクを負わせる可能性があり捺印を迫る友情はやめた方が良いかもしれません。
そして日本の制度自体がより合理的なものに変わっていくことを願っています。
今回の私のケース
私の場合民法改正の恩恵も全くない状況でしたが、裁判では使用者 (原告) 側の責任を確認していくことで私の負担を大きく減らすことができました。それは私の弁護士の追求が徹底していたこともあると思いますが、実際には被害者側がかなり雑な業務管理であったことが明らかだったので、原告自ら墓穴を掘った訴えだったと私は考えています。
しかし、結果はともあれ 2年間もの間相手からの分かりにくい文書(訴状、準備文書)を何回も読み込み、証拠の伝票の一枚一枚を追ったり、伝票から修理対象の自動車の車台番号をトレースしたり、多くの時間を費やしましたしストレスも受けました。
裁判沙汰などならないに越したことはないので、身元保証人にはならないことを強くお勧めします。
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