たまたまチェックしている日経クロステックに興味あるタイトルの記事が出ていました。
最近すっかりご無沙汰ですが、飛行機は乗るのも観るのも撮るのも好きで ANA のスーパーフライヤーズ会員になっていますし、無線も一応一アマ取得したくらいですから(交信こそあまりしていませんが)興味津々です。
記事の内容としては、ANA がとてつもなく新しい事をした、というわけでもなく時代の流れなんだな、と思う内容でした。
結論としては「無線機」→ 「会話 & チャットアプリ」への移行
一言で言うと、
アナログ/デジタル関係なくいわゆるトランシーバーを使ったブロードキャスト無線の仕組みに変えて、スマホアプリベース(つまり IP データ通信の)のコミュニケーションツールで職場の特性に合わせて業務を改善できそうだ。
効果ははっきりしているが、既存の無線機の全廃には至っていない(既存の 4割を残している)が、それでもコスト圧縮はできている(3-4割のコスト削減)。
使い方は単なる「無線機の代替」ではないらしい
単に音声を IP 通信化するのではなく、音声だけではなくチャットも利用できるだけではなく、作業グループごとのコミュニケーションを実現することで、「単一チャンネルの無線通信」の制約を克服できるようになったようです。元サラリーマンの理解としては、
Slack に「常時常時開設されているの音声チャットルーム」を第一の利用手段とした仕組みを取り入れたようなもの?
と想像しています。詳細は以下のアプリのホームページから確認することができます。
使われているアプリは
使われているのは、BONX WORK と言うツールのようです。
bonx.co.jp
そういえば、ANA のFLYING HONU(フライングホヌ)就航時にハワイに行った際に機内で CA が使っているのを見た記憶があります。今は分かりませんが当時は肩から iPad mini をかけて iPad を操作しながらイヤホンでコミュニケーションしていたのを思い出しました。少なくともそれまでに他の機材ではその様な様子を見たことはなかったですし、HONU が就航直後だったので CA さんは皆十分に慣れて使いこなす域には至っておらず、一つ一つの操作がぎこちなかった様です。
ちなみにコストは?
専用のアプリを使うと言うことは何かしらのクラウドサービスを前提にしていて、その使用料金がかかるものです。BONX WORK のホームページでは「基本プラン」と「オプション」に分けて説明されています。「基本プラン」では「複数ルーム通話/個別トーク」、「チャット・画像送信/全体通知 」は不可欠でしょう。これがないと単なる IP 無線機 + Slack に毛が生えた程度にしかならないでしょう。記事で紹介されていた「録音/文字起こし」も便利に使うとなると、どうやっても ¥2,200/人月 の「プロフェッショナル」が前提となりますね。
「オプション」ではセキュリティ上「接続デバイス管理」が要検討かもしれませんが、そもそも個人の iPhone を好き勝手に業務利用させない前提であれば、MDM レベルで管理すべきでそちらにお金をかけるべきかもしれません。
そうなるとざっくり ¥2,500/人月 以下 程度で利用できることになりますね(その他デバイス、通信料等は別途)。
使い勝手は?
基本的な音声に関わる操作は今までと大きく変わっていない様です。
基本的な操作は一般的な無線機器と同じ 「他の係員からの音声は常に聞こえる状態となっており、自分から他の係員に呼びかける際はイヤホンマイクの中央にある丸いプッシュ・トゥ・トーク(PTT)ボタンを押しながら発声する。」
さらに、アプリを使ったコミュニケーションも Slack を思い浮かべればすんなり理解できますね。
成田空港の場合、個々の出発便ごとに搭乗口担当係員の「ルーム」(チャットグループ)を設定。搭乗の準備状況や旅客の搭乗状況などを逐次連絡する。このほかチェックインカウンターの担当係員も別のルームを設定している。
何が変わったのか?
記事には、
従来の無線機には大きく2つの課題があった。1つはコストだ。
もう1つはコミュニケーションの範囲だ。従来の無線機は1つのチャンネルしか使えず、ターミナル内にいる全てのANA係員が単一のチャンネルでコミュニケーションを取っていた。
これにより「必要なときに必要な会話ができなかったり、旅客対応などで聞き漏らした内容があっても聞き返しづらかったりと、確実に情報伝達することの難しさが何十年も存在していた」と言うのは納得できます。
業務無線として専用周波数を割り当てられている航空会社の業務において、一般的な小回りが効く特定小電力無線局などを使って良いのかどうか分かりませんが、できたとしても複数のコミュニケーションデバイスを持って用途別に使い分けることが必要になるのであまり効果的では無いでしょう。少なくともイヤホンを使う前提だと耳は左右で最大二つしかありませんし、両耳をイヤホンで塞ぐのは接客業務としては現実的ではないでしょう。そうなると一つのデバイスで目的別(このアプリで言う「ルーム」)にかつ同時に利用することができる(と思われる)こういったデバイスは便利だと思います。
さらに色々な工夫ができそう
すでに 10空港に配備し、その特性に応じた使い方も工夫しているようです(例えば新千歳では「降雪時にルームの組み方を柔軟に見直す」といった対応もしている様子)。さらに「グランドハンドリング部門や整備部門などへの導入を検討」したり部門を超えたコミュニケーションも仕組みも「佐賀空港でフィージビリティーテストを実施」しているということで、さらに活用範囲が広がりそうです。
しかし、この仕組みはいわゆる無線機と違ってサーバーを介しているはずなので、wifi & インターネットや携帯キャリアの圏内でないと利用は制限されるはずだと思うのですが、私が見た HONU の CA はどうやって使っていたのだろう?と思います。私が見たのは駐機中だけではなく飛行中も使っていた様な気がします。もしかして衛星インターネットを使っていたかもしれませんが、機内でのコミュニケーションにはサーバー経由のやり方ではあまり使いやすそうではないで、サーバー機能は使わなくても良い機能だけ使っていたのかもしれません。記事でも機内利用には触れられておらず、地上での配備を優先する様なことが書いてありました。
それでもバックアップ用無線機はまだ廃止できず
信頼性は?
機能的には従来の無線機を置き換えることは十分可能なのでしょうけれども、「万一のシステム障害に備えて無線機も従来の4割ほど維持している」そうです。航空機業界は重要なインフラなので、「BONX WORK が止まったので一旦全業務を停止します!」とは言えません。そうなると 4割が妥当なのかどうか分かりませんが、ある程度の従来型無線機は残さざるを得ないのでしょう。
ホームページを見る限りでは信頼性に関する情報はありませんでしたが、業務用チャットアプリの Slack や Teams などの障害事例もあることですから、常識的に BONX WORK だって使えなくなるケースは想定しなければならないですね。
ブロードキャスト無線の価値 - ビジネスでも個人でもテレビとラジオは捨てられない
話は BONX WORK から外れてしまいますが、障害(災害)時を考えると個人の生活でも同じですね。現在では多くの人がたいていのことはインターネットと携帯キャリアの上のサービスで生活している様です。私もスマホニュースや LINE、LINE 電話などだけではなく、テレビ放送もネット配信を利用することもあります(NHK + や YouTube 配信を行っているテレビ局)。とはいえ、テレビで録画して視聴することも多いですし、地震があればすぐにテレビをつける習性もまだあります。
さらにラジオは身の回りに何台も有り、「災害時も最後にはラジオがあるから何とかなる」という安心感は大きいですね。